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「教師教育学〜理論と実践をつなぐリアリスティック・アプローチ」
F.コルトハーヘン 編著,武田信子 監訳,
今泉友里,鈴木悠太,山辺恵理子 訳 学文社
武蔵大学の武田先生から、「今、すごくいい本を翻訳している」と聞いていましたが、これは価値ある本です。
今、研究以外の本を読む暇なんかないのに、序文を読んだら止まらなくなり最後まで読んでしまいました。教育学部のみならず、高等教育、成人教育に携わる教員の必読図書と言えるでしょう。
オランダの教育学者フレット・コルトハーヘン氏は、教師教育に「実践と理論がともに高い価値をもち、しかも両者が深くつながるアプローチ」の開発、実践者でその考えは多くの国に広がっています。
コルトハーヘン氏が提唱するのは、PDCAサイクルと、ちょっと異なるALACTモデル。振り返りの次に”Awareness of essential aspects” があることが、ちょっと違うのです。人は振り返ると「次はどうしよう」「どうしたらよかったのか」と、すぐ次はどう改めるか新しい行動を考えがちです。そこで、「あなたは何をしたかったのか」、「あなたはどう感じていたのか」、「生徒たちは何をしたかったのか」というような8つの質問をすることで、その人の行動を生み出している本質的な課題に気づく、という省察を促す具体的な枠組みが書かれているのです。
これだけ読んでも、「おお!」とアマゾンへ直行したくなる人も多いと思います。サラ・バーンズなど他にも専門職養成における省察に関する本が出ていますが、コルトハーヘン氏の「省察」は、そこに『感情』を含めた幅の広い省察なのです。知的な分析だけでは人の行動は変わらない。行動を生み出している自らの深い部分に気づくことが大切・・その通りですねえ。
今年は、彼の講演を聞きたくて日本教師教育学会にも参加しました。 いつか保育学会か、保育士養成協議会の基調講演で、コルトハーヘン氏を呼べる日が来ればなあ・・・。養成における教員と学生の関係の質が、子どもと保育者の関係の質に影響を与えます。養成校の教員は、学生の行動モデル。教員が「静かに!」と大声を出していれば、学生も幼稚園や保育園で、子どもたちを「静かにしなさい!」と怒鳴るようになるでしょう。養成教育の改革に取組んだ先人から、多くのことを学びたいものです。
私の授業の方法は、目標をコンピテンシー(行動項目であり客観的評価が可能な項目)で明示し、獲得すべき知識と技術を、学生に最初に提示。それらが獲得できるように学生の経験を組織し、形成的評価を繰り返しつつ、それらの定着を図るという方法です。専門職養成としては、価値を含んだ行動を獲得することに重きをおいているのですが、これに加えて、本質に気づくやりとりが授業としてできるといいなあ・・・。子育て支援や幼児教育の大学院を創り成人教育に取組むときには、ぜひこの省察を中心に据えてみたいものです。
武田先生、訳者の皆さん、素晴らしい本を翻訳して下さりありがとうございます。